【コラム】働かないおじさん問題 ~中高年の危機「ミッドライフクライシス」と組織の処方箋~


目次
1.「働かないおじさん」は本当に「働かない」のか
2.現場では何が起きているか?
3.心理的要因「ミッドライフクライシス」
4.日本企業は何をするべきか
5.対応事例
6.研修で出来ること
7.まとめ:「おじさん」を“再点火”する組織デザインへ

昨今、若いリーダー層の悩みとして「年上の部下のモチベーションが低く、どう指導していいかわからない」とか、人事担当者の方から「定年間際の人材が給与に見合う働きを見せてくれず、困っている」といった声を聴くことが増えています。日本企業においては、若手・壮年期時代には十分あったやる気が徐々に落ちてきて、定年が近づくにつれて新しいことにも挑戦せず、日々を安穏と過ごそうとする「働かないおじさん問題」が企業の典型的な問題の一つとして認識されています。

この「働かないおじさん」という言葉は、個人の怠慢に原因を帰すレッテルになりがちですが、組織の現場で見えてくるのは、個人の意欲と能力だけでは説明しきれない、複数の要因の絡み合いが存在しているのです。そもそも中高年に対しては、評価者側の「働くモチベーションが低い」という思い込みがあり、それに日本企業の構造上特性がモチベーションを実際に下げる結果を生んでいます。さらに中高年は心理学的にモチベーションが下がりやすい構造上の特性があり、問題をさらに複雑にし、解決を難しくしていると考えられます。

本稿では、データに基づいて「何が起きているのか」を整理し、ミッドライフクライシスの知見、日本企業の仕組みの課題、そして有効に機能している対応策・研修の処方箋をご提案します。

素朴な実感として、「おじさんは働かない」ことに賛同する方は多くいらっしゃるように思います。しかしここには、いくつかの思い込みと、制度による落とし穴があります。

1) 「給与分の働きをしていない」という見え方

これは日本がそもそも終身雇用を前提とした年功序列に基づく給与体系を導入しており、年齢とともに右肩上がりに給与が増える仕組みをとっていることから生じます。企業としてはそのような体系をとる以上、若い間は丁稚奉公のように安い給与で働き、年をとってから回収する仕組みにより、一生の中で収支のバランスをとっています。「おじさん」のタイミングだけ抜き出してみれば、給与が働きに対して割高に見えるのは、当たり前です。

2) 「新しいことをやらない」という見え方

これは指摘通りの側面もありますが、一方で新しいことをやる機会を与えられていないという側面もあります。能力開発という観点では、職場外訓練(OFF-JT)の年齢別受講率は「20~29歳が42.6%、30~39歳が35.1%、40~49歳が33.3%、50~59歳が30.9%」と加齢とともに低下します。学ぶ機会の減少は、働きぶりの見え方に直結します(2022年度「能力開発基本調査」集約記事より)JIL(労働政策研究・研修機構)3。学ぶ機会を与えられないのだから、新しいことができないという側面がありそうです。また、新しいことに挑戦する場合は一時的にパフォーマンスは落ちますが、上記のように高い給与水準ではそれが許容されないという側面もありそうです。

3) 定年が近いので「逃げ切ろうとしている」という見え方

「昇進の可能性がない中でやる気が出ない」だろうという、制度に対するものの見え方の問題と言えそうです。まず、役職定年制は民間企業の16.7%に残存し、年齢は55歳が最頻で、運用継続の意向は9割超です。役職定年制が少なくない企業にあり、モチベーション低下の要因の一部ではありそうですが、だからと言って全員がモチベーションを下げるわけではありません。しかし、「役職定年をすぎた従業員にはやる気がない」という先入観からやりがいのある仕事が割り振られず、結果としてパフォーマンスが出ないという側面があります。心理学的な「確証バイアス」が生じると言えるでしょう。このバイアスに基づいて、そもそもチャレンジを含めた目標設定をしない・フィードバックをおざなりにするなどのケースが見られます。また、やる気と能力のある「おじさん」は管理職になっているので、必然的にそれ以外の「おじさん」だけをみて働かないとい判断されているという観点があります。同様に若手社員からエース社員を除いて評価した場合に、同様にモチベーションの低い社員が多い印象を持つのではないでしょうか?

このように不当におとしめられている面がありますが、一方で実際に十分なモチベーションがなく、能力が活かされていないのも事実です。例えば、以下のグラフ「仕事の裁量満足」では、40代が47.1%で最も低く、10代の67.0%、60代の59.9%と比べて谷を形成します。裁量感は、若年→ミドルで徐々に低下し、シニアで回復する“U字”のグラフを描いており、中年期の手応えの薄さを反映している可能性があります。

パーソル「はたらく定点調査」年代別の裁量満足パーソルホールディングス 
グラフ:仕事の裁量満足(10代・40代・60代の比較)

また次の「エンゲージメント調査」のグラフでは、まず「年代別」にみると20代と60代が高く、50代は40代と同じ水準で低いので、一概におじさん問題とは関係なさそうに見えます。しかし次の「役職・雇用形態別」グラフでは部課長以上のエンゲージメントが高いことから、役職についていない高年齢層のモチベーションが低いということが言えそうです。

出典: PR TIMES【第3回】 全国1万人エンゲージメント調査結果レポート(株式会社アジャイルHR・株式会社インテージの調査)「年代別のワークエンゲージメントと組織コミットメントの全国平均値」

以上から、部分的に偏見によってやる気がないと断罪される一方で、やる気が出にくい構造を日本の企業が持っているとは言えそうです。皆様の会社でも構造上の仕組みを思い浮かべてみると、思い当たる節が1つや2つは見つかるのではないでしょうか。

中年期の“落ち込み”は心理学的にも確認されています。大規模調査の実証で、主観的幸福感は「若年と高齢で高く、中年で落ち込む」U字型を描くことが繰り返し示されており、日本のデータでも「35~49歳で主観的幸福感が下がる」傾向が確認されています。この谷を一般的に「ミッドライフクライシス」と呼び、人生の折り返し地点を過ぎた中年期(40〜60代)に自身の人生やキャリア、アイデンティティに対して葛藤や不安を感じる状態を指します。

具体的には、
・加齢による身体的な不調やホルモンバランスの変化によって老いを感じる
・定年が見えはじめ、自分の人生の可能性に限界が見える
・家族の関係性の変化(子育ての終了など)により自分の役割の減少を感じる
など、複合的な要因が重なり「これまで培ってきた自身の価値観や役割が年齢と共に揺らぐことで葛藤が生じる」ことが多いと言われています。

もちろん個人のレベルで、こうした状況を甘んじて受けましょう、と言いたいわけではありません。加齢を重ねても常にモチベーションが高く前向きな方が多くいることも事実です。個人的な意味で谷を克服するには、人生の再評価や新しい趣味、運動などを通じて自己実現を目指し、前向きに生き方を見つめ直すことが重要です。

その一方で、企業ができることも多くあります。次は「働かないおじさん」の具体的な転換策を考えてみましょう。

ここまでの話を整理すると、❶「おじさんは働かない」という評価側の思い込み、❷モチベーション低下を招きやすい制度や組織構造上の問題、さらには❸人生における心理的な谷「ミッドライフクライシス」、これらが重なりあうことによって、おじさんは「無気力・防衛的姿勢・挑戦回避をしている=働いていない」ように見える状況に陥っている、と言えます。

このような状況に対して、「やる気を出せ」、「給与に見合う働きをしないのはだらしない」、「地位に甘んじている」などと批判したところで、生産的な改善にはつながりにくいでしょう。「働かないおじさん問題」は、おじさん自身の個人的問題というよりも、企業組織そのものが持つ構造的なひずみが存在し、そこに心理的状況が入り込むことで問題が複雑化している状態です。

したがって、改善策の要諦は「叱咤」ではなく、企業が「裁量・意味づけ・越境的経験・学習の再起動」を伴った支援をすることであり、具体的には下表のような内容が考えられます。

このような「組織の構造的なひずみに対するアプローチ」に関連して、経産省「未来人材ビジョン」での指摘事項が想起されます。日本型雇用の強み(長期雇用による能力蓄積)を認めつつ、成長鈍化下での限界として、
・低い従業員エンゲージメント、遅い昇進、転職が賃上げに結びつきにくい非流動的市場
・企業の人材投資不足
・経営層の同質性、グローバル経験不足、女性管理職比率の低さ  
などを列挙しています。さらに、技術革新に対して、「従業員スキルとのギャップ」を認める企業が多数であるのに、人への投資も個人の学びも弱い、という現実も指摘しています。

これらは理想像として「あるべき姿」を並べたものであり、現場で生じている「働かないおじさん」とは一見関係のない問題に見えるのかもしれません。しかし、働かないおじさんに対する構造的アプローチは、「あるべき姿」に内包される組織力強化策に通じるのではないでしょうか。

必要な対応策は根本的・抜本的なものであり、すぐに解決することは難しいかもしれません。それでも現場においては少しでも個別の人材のパフォーマンスを改善する打ち手が必要とされます。人事組織上の対応策は万全ではなく、どれも「唯一の正解」ではありません。こういう成功例もあるという視点で、自社の前提に合わせて検討いただければと思い、いくつか事例をご紹介しておきます。

1) 1on1の定着化とマネジャー育成

企業の7割近くが1on1を導入し、とくに3,000人以上企業での導入率は75.7%。コロナ期以降の導入加速も観測され、継続的な対話基盤が裁量感・成長感を支えています。代表事例としてヤフーは「部下の才能と情熱を解き放つ」を掲げ、コーチング等スキルを体系化。社員約9割が隔週・30分の1on1を実施する運用にまで到達しています。

2) 越境学習(社外での実践経験)

所属を離れた環境での業務体験が、認知的不協和—良質な葛藤—行動変容を生み、イノベーションに資するスキル・コンピテンシーを育てます。中外製薬・ハウス食品・パナソニック・カゴメ・パルコ等の大手が事例を蓄積し、帰任後の組織変革や協業創出にも波及しています。

3) リスキリングのボトルネック把握

性年代別では40~50代女性で経験・習慣とも顕著に低下。対象層の学び直し障壁(時間・ケア責任・心理的ハードル)を直視した支援設計(就業時間内学習、伴走、実務適用機会の確保)が不可欠です。

4) キャリアと配置の再設計

人手不足の構造下、女性・高齢者・外国人材の活躍を進めるマクロ対応と、介護・小売など人手が集まらない分野のミクロ対応を同時に進める必要があります。マッチング機能や希望条件の変化を踏まえ、人材移動と賃金・学習機会の連動を高めるのが肝要です。

私からはこれに加えて次世代に対する教育やノウハウの形式知化をミッションとして掲げることを推奨したいと思います。自分自身の社内評価や出世の可能性に限界が見える中で、自分自身ではなく他者への貢献によって自己有用感を得ることは、内発的動機付けとして優れています。

一方、多くの企業では、「ナレッジ共有」や「若手育成」は定性的にお題目として評価基準に入れられていても、実際に具体的な目標やアクションプランに落とし込んで高年齢層の社員に役割として与えられているケースは多くありません。

私が実際に支援した会社では、若手に対する教育体系を構築するプロジェクトに複数のベテラン社員をアサインし、実際にマニュアルや写真付きの手順書を作成してもらっているケースがあり、むしろ日常業務に対するモチベーションが改善した、というお話を聞きました。

1)ミドル層のキャリア・リデザイン(心理×構造の統合介入)

中年期のU字(幸福・裁量・エンゲージメント)を見える化し、意味づけを再構築するキャリア介入。具体的には、生成性(次世代貢献)を軸に、社内プロジェクト・社外越境・後進育成を組み合わせた「役割の再定義」を設計します。学び直しは就業内に組み込み、実務適用で“学習の手触り”を担保します。

2)マネジャー向け1on1実践塾(裁量・成長・関係性の回復)

「目的—プロセス—内省」を回す1on1の型化と、コーチング/フィードバック/期待水準の合意形成スキルを反復演習。四半期KPIと個人の学習目標をリンクさせ、「やって終わり」から「学んで成果化」への転換を支援します。特に年上の部下に対するコミュニケーションの取り方や、考え方を共有することで若手リーダー層や中間管理職の心理的負担を軽減することも目指します。

3)リスキリング(学び—成果のループ設計)

対象層の障壁に合わせ、勤務内学習やスモールステップ課題、ペア学習、評価・処遇と連動した「学びの成果可視化」を設計。デジタル基礎—業務応用—現場POCの三層で“使えるスキル”に落とし込みます。

実は生成AIは、日本語の自然文で処理できる領域が多いため、ITスキルに苦手意識を持つ中高年層でも、一回やり方を覚えてしまえば活用しやすいという特徴があります。AI研修などで生産性が大きく変わる場合がありますので、ぜひ検討することをお勧めします。

「おじさん」層は、知識と人脈、現場知がもっとも蓄積した組織の「要」です。データが示すのは、個人のやる気不足ではなく、❶評価する側の偏見、❷構造上の問題、❸心理的谷が重なって“働かないように見える”という現実です。

企業としては、「日本型雇用の構造的課題」に合わせた組織体制の不備を直視しつつ、制度の見直し、期待役割の再定義と評価の適正化、学習機会の提供をセットとして「おじさんを“再点火”する」組織へと進化させていきましょう。

ヒューマンエナジーは、学習理論に基づく実践的な研修プログラムを起点に、企業ごとの組織課題に合わせた実装と定着までを支援いたします。まずはディスカッションから始め、御社の組織課題を明確化するところからご一緒できればと思います。お客様の価値観に合致した効果的な人材育成にご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

また、上記内容の無料セミナーを2025年9月18日(木)15時~実施致しますので、是非ご視聴ください。


株式会社ヒューマンエナジー 代表取締役 神山 晃男  
様々な企業での実務的な経営経験も活かし、経営改善・組織改革から現場の業務効率化まで幅広く、お客様の目的にあわせた研修プログラムをご提供します。

株式会社こころみ 代表取締役
株式会社ウェブリポ 代表取締役

<外部役員・他>
・認定NPO法人カタリバ 監事
・医療AI推進機構株式会社 監査役
・株式会社テレノイドケア 顧問
・流通経済大学 非常勤講師
・元 株式会社イノダコーヒ 取締役
・元 イングアーク1st株式会社 監査役
・元 株式会社コメダ 取締役

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