「部下が上手く動けない」のは、相手の理解力だけの問題?
―管理職に求められる「 伝える力 」の見直し―

先日、製造業のお客様からこんな相談を受けました。
「外国人派遣スタッフが増えているのですが、指示がうまく伝わらないことが多くて。認識違いやミスが続いていて、現場から不満も出ているんです。」
よく聞いてみると、外国人スタッフ全員がうまくいっていないわけではありませんでした。指示を出す人によって、コミュニケーションがうまく取れる・取れないに差もあるようなのです。もちろん、日本語能力や文化の違いが影響する場面はあります。しかし問題の一端は、外国人スタッフ側だけではなく、指示を出す側の「伝え方」にもあるのではないか、というご相談でした。
この事例をきっかけに、今回は管理職に求められる「 伝える力 」について考えてみたいと思います。
目次
1.多様性社会では管理職の「 伝える力 」の見直しが急務
2.「関わり方」を変えるには
3.言語化の例:場面別の伝える型
4.まとめ
1.多様性社会では管理職の「 伝える力 」の見直しが急務
1)多様化による「認識のズレ」が起きやすくなっている
今の職場には、さまざまな背景を持つ人材が混在しています。
・価値観や仕事観が異なるベテランと若手、Z世代の混在
・前職のやり方が染みついている中途採用者
・文化や言語背景の違う外国人材
・時間制約のある派遣・パート社員など
このような環境では、従来のような「言わなくてもわかる」「見て覚えてほしい」「普通はこうする」という伝え方が通用しにくくなっています。
また問題は、単純な理解力だけではありません。「わからないことは確認する」「相手の意図を考える」「求められている水準をすり合わせる」といった溝を埋めるための歩み寄り行動を、受け手がどこまで自発的に取ってくれるかにも大きな期待差があります。
相手に望むにも限界がある以上、多様な人材が働く職場では、「言えばわかる」「わからなければ聞いてくるはず」と期待するのではなく、こちら側から解釈の余地を減らす伝え方が求められます。
2)指導・注意の「受け止め方」の変化

もうひとつ重要なのは、指導や注意の場面における伝え方です。管理職の言葉や態度の受け止められ方は、これまでとは変わってきています。
かつては、「厳しく指摘されるときには訳がある」「怒られる側にも原因がある」と受け止められていた関わり方でも、今日では相手に強い圧迫感を与える言動や、ハラスメントにつながる行為として問題視されることがあります。
もちろん、業務上必要な注意や改善指導は、管理職の大切な役割です。ミスの繰り返し、約束した行動が守られない、周囲に影響が出ているといった場面では、きちんと伝えなければなりません。
一方で、正当な注意であっても、感情をそのまま言葉や態度に出す、人格や姿勢を決めつける、人前で強く叱責する、威圧的な言い方をするといった関わり方は、相手を萎縮させ、ハラスメントと受け取られるリスクがあります。
管理・監督する立場である以上、管理職本人に「そんなつもりはなかった」としても、相手がどう受け取ったか、第三者から見て適切な関わりだったかが問われるのです。また相手が、相談窓口、外部機関、法的手段、SNSなどを通じて、職場で受けた指導や注意について外部に相談・発信しやすくなっている今、企業としても、管理職に適切な関わり方を教育していたかどうかが問われます。
このように、多様化の時代だからこそ、指導・注意の場面では、相手が受け止められる形で伝える力がますます重要になっています。企業としても、その伝え方を管理職任せにせず、教育すべきテーマとして位置づける必要があります。
3)人材の流動性が高い今、「関わり方」は人材戦略に直結する
さらに、人手不足が深刻化する今、管理職の関わり方は、採用した人材を早期に戦力化し、定着させるうえで、以前にも増して重要になっています。
同じ会社の中でも、「あの上司の下では人が育つが、別の上司の下では定着しない」「あの管理職の指示はわかりやすいが、別の管理職の指示ではミスが増える」「あの人の任せ方は部下を成長させるが、別の人の任せ方では部下が不安を抱えたままになる」といった差が生まれている職場は少なくありません。
人材に余裕があった時代であれば、こうした差は「管理職による違い」として見過ごされていたかもしれません。しかし、人材不足の時代には、採用した人材を早期に育て、持てる力を発揮してもらい、職場に定着してもらうこと自体が重要な経営課題です。そのため、管理職ごとの関わり方の差は、単なる個人差ではなく、育成スピード、現場での活躍度、定着のしやすさに直結します。
だからこそ、管理職の関わり方を、単なるコミュニケーションスキルとして扱うのではなく、人材を育て、活かし、定着させるための「戦略的な関わり方」として捉える必要があります。
管理職一人ひとりが、組織として求める関わり方を理解し、共通の考え方と行動基準に基づいて部下に向き合える状態をつくること。それが、人材不足時代において、育成・戦力化・定着を安定的に進めるための重要な土台になります。
ここまで見てきたように、管理職の「 伝える力 」を見直す必要性は、単なる話し方の問題にとどまりません。管理職の関わり方そのものが、組織の信頼や人材戦略に大きく影響するため、 管理職研修 の主な要素として体系的に教育していくべきテーマの一つになってきています。
2.「関わり方」を変えるには
1)管理職研修で、意識と行動の両面を学ぶ
管理職の関わり方を見直すには、まず1章のような時代背景や職場環境の変化を理解することが欠かせません。それらを踏まえ、 管理職研修 でまず伝えるべき重要なポイントは、「自分を基準にした関わり方」から、「相手がどう受け取り、どう行動できるかを起点にした関わり方」への意識転換です。
そして、意識を変えるだけでは、明日からの行動は変えられません。何を、どのように変えればよいのか、具体的な行動についても基本を学ぶことで変化を促進できます。
管理職に求められる関わりは、昨今では「対話力」とも言いますが、具体的に展開していくと「伝え方」以外にも様々な要素があります。相手の状況を把握するには「聞く」「見る」ことも重要です。また成長を促すには「任せ、育てる」ことも欠かせません。これらの要素を全般的に指導する必要がありますが、今回は様々な働きかけの土台となる「伝える力」に着目していきます。
なお、管理職研修では、このような知識やスキルを一方的に提供するだけでなく、同じような立場の管理職同士が学びながら、現場での悩みや工夫を語り合う場としての役割もあります。人事としても現場の生の声を拾い上げ、孤立しがちな管理職を支える機会にもなるため、ワークショップ型の管理職研修としての重要性はますます高まっています。
2)「伝える力」における3つの視点
伝える力とは、単に説明が上手いかどうかだけではありません。現場の「伝えたつもり」と「伝わった」の間には、いくつかの溝が挙げられます。ここでは大きく3つに分類してみました。

まず、 管理職側からの伝える内容そのもののわかりやすさを見直す「言語化」についてです。こちら側が意図として含んでいる「つもり」、すなわち暗黙知や前提を相手に伝わりやすく言葉にするには、どう具現化するとよいのか。詳しくは次の章で解説していきます。
次に、図・写真・実物・手順書など言語以外の手段を活用するほか、声のトーンや表情、伝える場所やタイミングなど言葉以外の伝わり方を整える「非言語」についてです。これはハラスメント対策としても特に重要なポイントとなります。また、最も個人が自分だけでは変えにくい要素になります。そのため、例えばワークショップ型の学びを通じて、客観的な自分への気づきを促したり、理想像を練習してみるなどの実践的な学びの場は非常に有効です。
そして、最後は相手の言葉で理解を確かめる「確認」行為が有効です。現場ではよく「わかりましたか?」「はい」という形式的な確認行為がなされがちですが、本当に相手が理解しているとは限りません。目上の人に質問や意見がしにくい文化圏や価値観もあります。また、少し時間のかかる仕事の場合は、あらかじめ状況報告のタイミングや内容を決めておくことも有効です。このような「伝える」の後に、相手の理解状況をいかに確認していくかが、「伝える」を確かなものへと押し上げていきます。
これら3つを同時に意識するというよりも、今問題が起きやすい相手とはどこが大きく障害になっているかを見極め、ひとつずつ改善を試みる、というのが現実的だと考えます。
では次の章で、特に行動に移しやすい「言語化」の型について解説していきます。こうした型があることで、管理職が自分の経験や感覚だけに頼らず、具体的に行動を変えやすくなります。
3.言語化の例:場面別の伝える型
伝え方は目的によって必要な順序や内容が変わります。そこで、今回は「部下がうまく動けない」状況に着目して掘り下げてみましょう。相手の立場になって考えてみると、以下のような3つのつまずきが考えられます。
・何をすればよいかが曖昧
・なぜそれをするのか納得できていない
・何を直せばよいかがわからない
今回はこの3つのつまずきに対応した「伝える型」を解説していきます。
① 期待明確化型:目的 → 期待成果 → 期限 → 支援

これは、一般的な業務依頼や役割付与の場面で使う伝え方です。目的は、部下が迷いなく動ける状態をつくることです。
よくある問題は、管理職が「やること」だけを伝えてしまうことです。例えば、「この資料、まとめておいて」だけでは、部下は何のための資料なのか、どのレベルまでまとめればよいのか、いつまでに必要なのか、困ったときに誰に相談すればよいのかがわかりません。
そこで重要なのが、「目的 → 期待成果 → 期限 → 支援」の順番です。例えば、次のように伝えます。
例:「来週の顧客打ち合わせで現状の課題を共有したいので、過去3か月の不良件数を資料にまとめてください。A4一枚で、件数の推移と主な原因がわかる形にしてほしいです。期限は金曜15時までです。途中で迷ったら、木曜午前までに一度相談してください。」
このように伝えると、部下は「何をすればよいか」だけでなく、「何のために」「どの水準で」「いつまでに」「どこで相談できるか」がわかり迷わないので、より行動に移しやすくなります。
② 合意形成型:背景 → 論点 → 選択肢 → 評価軸 → 合意

これは、複雑な課題や意見調整が必要な場面で使う伝え方です。目的は、相手に納得して判断・行動してもらうことです。
管理職の伝え方でよくあるのは、「来月からこのやり方に変えます」「今回はA案でいきます」と、結論だけを伝えてしまうことです。結論を明確に伝えることは大切ですが、背景や判断基準が共有されないままでは、部下は納得しづらくなります。
そこで重要なのが、「背景 → 論点 → 選択肢 → 評価軸 → 合意」の順番で伝えることです。
例:「最近、納期遅れが月に3件発生しています。原因は、出荷前検査のタイミングが担当者によってばらついていることです。今回の論点は、検査のタイミングをどこで統一するかです。選択肢は3つあります。今回は、ミスを減らすこと、現場負荷を増やしすぎないこと、納期に影響を出さないことを評価軸にします。この基準で見ると、作業完了直後に一次確認し、出荷前に最終確認する方法がよいと考えています。」
合意形成で重要なのは、必ずしも全員一致ではありません。大切なのは、判断の背景、評価軸、最終的にどう進めるかが共有されていることです。
③ フィードバック型:状況 → 行動 → 影響 → 今後の期待

これは、部下の成長や改善を促す場面で使う伝え方です。目的は、気づきと行動変容を促すことです。
フィードバックでよくある失敗は、「やる気がないよね」「責任感が足りない」「何回言ったらわかるの」「君はいつも雑だよね」と、人格や性格に踏み込んでしまうことです。このような伝え方は、相手を防御的にさせ、ハラスメントと受け取られるリスクも高めます。
フィードバックで大切なのは、自分の感情をぶつけることや相手の人格否定ではなく、事象や行動に焦点を当てて意見を伝えることです。そのためには「状況 → 行動 → 影響 → 今後の期待」の順番で伝えます。
例:「昨日の朝礼で、Aさんが報告している途中に説明を始めた場面がありました。その結果、Aさんが最後まで話せず、他のメンバーも発言しづらそうに見えました。次回からは、相手の報告を最後まで聞いてから、自分の意見を伝えるようにしてください。」
大切なのは、感情的な強さではなく、具体性です。どの場面で、どの行動が、周囲にどんな影響を与えたのか、そして次にどうしてほしいのか、これを具体的・客観的に伝えることが、行動変容につながります。
4.まとめ
冒頭の外国人材とのコミュニケーション課題は、決して特殊な問題ではなく、多様化する職場で多くの管理職が直面している「 伝える力 」の問題だと言えます。
しかも、このような「関わり方」については、管理職個人の資質に任せるのではなく、組織共通の考え方や型として指導していくことが、これからの管理職育成には欠かせません。
その管理職研修では次のようなポイントを押さえて指導していくことが重要です。
・多様化と人材流動が激しい、これからの職場環境を理解し前提とすること
・「自分を基準にした関わり方」から「相手がどう受け取り、どう行動できるかを起点にした関わり方」へ意識転換をすること
・伝える力は「言語化」「非言語」「確認」の3観点から見直すこと
・「言語化」については、場面別の「型」として現場で実践しやすいモデルを示すこと
今回の言語化の型では、部下がうまく動けない時の3つのつまずきを解説しました。何をすればよいかが曖昧な場面では「期待明確化型」、なぜそれをするのか納得できていない場面では「合意形成型」、何をどう直せばよいかがわからない場面では「フィードバック型」を基本として意識して実践してみましょう。
これからの人材不足の時代にむけて、多様な人材を受け入れ、早期戦力化し、定着させていくためには、管理職の「 伝える力 」をアップデートすることが重要な第一歩になるのではないでしょうか。
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この記事を書いた人

神山 晃男(かみやま あきお)
株式会社ヒューマンエナジー 代表取締役
経営層むけの管理者育成研修、戦略立案などの他、
コミュニケーション研修が得意領域。
経営改善や投資ファンド系のコンサルティング会社を経て、2013年6月に株式会社こころみを設立。「コミュニケーション」と「高齢者・医療・介護系マーケティング」の専門家として数々のセミナー出演や執筆活動の他、大学院との共同研究や介護ロボットのAIによる会話エンジンの開発支援などにも携わっている。2022年、事業承継により㈱ヒューマンエナジー代表取締役に就任、経験を活かし講師としても精力的に活動中。
株式会社こころみ 代表取締役
株式会社ウェブリポ 代表取締役
認定NPO法人カタリバ 監事
医療AI推進機構株式会社 監査役
株式会社テレノイドケア 顧問
流通経済大学 非常勤講師
元 株式会社イノダコーヒ 取締役
元 ウイングアーク1st株式会社 監査役
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