
3月に入り、新年度の新入社員受け入れ準備が本格化する時期となりました。多くの企業では、研修設計や配属調整、OJT体制の整備が進んでいることでしょう。
さて、この受け入れ期は特に、早期離職やメンタル不調の増加、育成担当者の負荷増大といった課題が顕在化しやすくなる時期でもあります。現場では、新人の踏ん張りと成長に期待しつつも、「強く言うと辞めてしまうかも」「でも優しくすると育たない。結局任せられず、負担は増すばかり」——そんな板挟みの声も多く聞こえてきます。
ここで必要とされるのが、困難が起きても立て直して前に進む力、「レジリエンス(回復力)」です。本稿ではこのレジリエンスを、個人の性格や根性論で捉えるのではなく、組織の関わり方と仕組みによって育てられる力として捉え直します。
「個人と組織の両輪で進めるレジリエンス戦略」として、特に受け入れ側が今から講じられる打ち手のポイントを大きく3つにわけて解説していきます。まだ3月からでも間に合うこともあります。本稿をヒントに受け入れ側の構えの本質を押さえ、新人も現場も、両者が安心して前に進める状態で新年度を迎えましょう。
目次
1.なぜ今、企業にレジリエンス戦略が必要なのか
1)早期離職の原因は、本人だけの問題?
2)レジリエンスの発揮は、3つの相互作用
3)受け入れ側のレジリエンス戦略、「関わり方を変え、育てる」
2.受け入れ側が講じるべき施策
1)個人のレジリエンスを育てる
2)環境のレジリエンスを築く
3)組織レベルの構造的対策
3.最後に
1.なぜ今、企業にレジリエンス戦略が必要なのか
1)早期離職の原因は、本人だけの問題?
学生から社会人へと大きな環境変化に飛び込むことで、新人は、これまで経験したことのない仕事での失敗、叱責、他者との比較など、複数のストレスに一気にさらされやすくなります。受け入れ期に起きるこうした「つまずき」を放置すると、自信喪失 → 思考・行動の停止が連鎖し、早期離職や休職、メンタル不調のリスクが高まります。実際に令和6年以降、厚生労働省による「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率が3割を超えた」という発表に、危機感を覚えた人事ご担当者様も多いことと思います。

もちろん離職要因は複合的であり、個人要因に限りませんが、売り手市場の労働環境や価値観の多様化とも相まって、従来よりも「受け入れ期のつまずきが表面化しやすい」ことを示しているのではないでしょうか。
そして、この若手の早期離職問題を目の当たりにすることで、受け入れ側(上司・育成担当)にも当然戸惑いが生じます。「強く言うと折れてしまうのではないか/辞めてしまうのではないか」という不安がある一方で、優しくするだけでは、品質が上がらない、仕事を任せられない、現場の負担が減らない——。受け入れ期には、このような板挟みが構造的に生まれやすいのです。
受け入れ期は、このように双方ともに悩ましい状況を抱えやすい状況ではあります。しかし、労働環境の変化や価値観の多様化を踏まえると、組織の未来のためには、もはや若手のつまずき問題を本人の気合や根性論だけで片づけることはできません。厚労省のデータは、受け入れ側として積極的な介入の必要性を示すシグナルだと捉えるのが現実的だといえるのではないでしょうか。
2)レジリエンスとは、3つの相互作用
レジリエンス(resilience)とは、「逆境やストレスに直面した際に、適応し、回復し、成長へとつなげる動的プロセス」と定義されます。重要なのは、レジリエンスが個人の資質だけで決まるものではなく、環境との相互作用で発揮される点です。ここでは実務に落とし込みやすいよう、次の3つの層で整理します。

① 個人レベル(本人の心理資源)
ストレス下での対処行動を支える心理資源として、「認知的柔軟性」「感情調整」「自己効力感」「楽観性」などが挙げられます。中でも、受け入れ期に影響が大きいのが「認知」と「感情」です。
・物事の捉え方(認知)が偏ると、失敗や叱責を自己否定に結びつけやすい
・感情が過度に揺れると、相談や行動が止まりやすい
こうした自信喪失や 思考・行動の停止状態を放置したり本人任せにしないことが重要です。
② 環境レベル(関係性の土壌:心理的安全性)
個人のレジリエンスを引き出す土壌として重要なのが「心理的安全性」です。心理的安全性は、チームの研究(例:Google社のプロジェクト Aristotle)等でも注目され、「対人リスクを取っても罰せられないと感じられる状態」と定義されています。要は、新人が先輩に質問や相談をしやすい、失敗を吐露しやすい環境にあるかどうか——ここが受け入れ期の回復力に直結します。
③ 組織レベル(育成の仕組みやフォロー体制)
さらに一段上の層として、ここでは「組織レジリエンス」の考え方を育成構造に読み替えます。具体的には、受け入れ期の紆余曲折が起きても育成が破綻しないように、
・フォロー体制(誰が、いつ、何を支えるか)
・振り返り・学習の仕組み(失敗から学べる運用)
・現場任せにしすぎない設計(偏り・属人化を防ぐ)
といった構造が整っているかどうか、という観点をおさえます。
以上のように、レジリエンスは「個人」だけで完結するわけではありません。「①個人(本人)×②環境(チーム)×③組織(仕組み)」という3つの相互作用の結果として捉えることにより、板挟みで行き詰まっていた現場にも打ち手の選択肢が広がっていきます。
3)受け入れ側のレジリエンス戦略、「関わり方を変え育てる」
個人のレジリエンスは、採用段階だけで見極められるものでもありません。環境との相互作用の中で形成されていく——つまり、受け入れ側がどのような環境設計を行うかによって、若手のレジリエンスはもっと伸びもすれば、損なわれもするのです。だからこそ、レジリエンスを個人の性格や根性論だけで捉えるのではなく、関わり方と仕組みによって「育てる力」と捉え直す意識がとても重要になります。
受け入れ側が狙うべきは、つまずきが起きたときに立て直せるように、関わり方と仕組みを整えること、つまり新人に「個の強さ」を求めるのではなく、つまずいても立て直し、学びに変え、次の行動へ移す「回復→学習→成長」の回路をつなぐこと、これを個人任せにせず、組織として動かせるように支援していくことが狙いなのです。
この環境や仕組みが整う組織は、実は若手の離職問題への対処に留まらず、世代を超えて学習し続ける組織へと進化し、新人の未来だけでなく、組織全体の変化対応力にも効いていきます。受け入れ側のレジリエンス戦略の取組みの考え方は、組織の未来への重要な転換点にも通じているのです。
2.受け入れ側が講じるべき施策
ここでは、3月からでも着手しやすく、4月以降の受け入れを安定させるためのポイントに絞って整理しています。
1)個人のレジリエンスを育てる
最も基本的な施策は、新人への直接的な教育ではなく、まず上司や育成担当者が、以下①②③の観点に基づく指導の仕方を学ぶことです。あわせて、現場で随時指導できるよう、上司や育成担当者への訓練を重ねます。
①認知的柔軟性を育てる(受け止め方)
ストレス下では、人は思考が硬直しがちです。これを防ぐには、「出来事と解釈を分ける」訓練が有効です。
例 ・失敗事例を用いたリフレーミング演習
・「別の解釈を3つ出す」ワーク
・ABCモデル(出来事‐信念‐結果)の活用
②感情調整スキルのトレーニング(受け止め方)
感情は抑圧するのではなく、「気づき→言語化→選択」というプロセスを学ぶことが重要です。
例 ・感情ログの活用
・ストレス反応の身体サイン教育
・呼吸法やマインドフルネスの導入
③自己効力感を高める
自己効力感は行動の継続を左右します。課題の提供計画やフィードバック方法を研修やワークショップなどで強化します。
例 ・小さな成功体験の設計(段階的OJT)
・達成の可視化
・具体的フィードバック(SBI法)
2)環境のレジリエンスを築く
①心理的安全性の制度化
心理的安全性とは「空気」ではなく、「運用」で築かれていく組織文化や信頼感でもあります。
またGallup社の調査から、意味のあるフィードバックを頻繁に受ける従業員はエンゲージメントが高まる傾向が報告されており、頻繁な対話も有効だと考えられます。
例 ・1on1の定期化(短時間・高頻度)
・「分からないは早いほど良い」と明文化
・失敗共有を評価項目に含める
②育成担当者のレジリエンス支援
見落とされがちなのが、若手指導の運用が進行する中でおきる育成担当者側の心理的消耗です。
育成担当者自身の感情調整と認知柔軟性が保たれてこそ、若手の成長が加速します。指導の期間中は、担当を孤独にせず、課題を抱え込ませないことと、感情の整理をすることがポイントです。
例 ・メンターのデブリーフィング会(感情整理)
・人事との定期面談
・育成担当者向けレジリエンス研修
3)組織レベルの構造的対策
①育成ロードマップの明確化
曖昧な期待は不安を生みます。
例 ・30日・60日・90日それぞれの段階的到達目標の明示
・評価基準の可視化
・OJTチェックリスト
②失敗を学習資源に変える文化
組織レジリエンス研究では、「失敗からの学習能力」が重要要素とされています。
例 ・失敗共有会
・ナレッジデータベース化
・失敗事例の表彰
③経営層メッセージの発信
トップの姿勢が、組織の心理的枠組みの規定に最も影響を与えます。
このようなメッセージが現場に安心感をもたらします。
例 ・「育成は投資である」
・「成長には時間がかかる」
3.最後に
4月の新入社員受け入れは、単なる年度行事ではありません。
それは、企業のレジリエンスを試す機会でもあります。
本人に強さを求める前に、組織としてどのような環境を用意しているか、
この問いに向き合うことこそが、企業の持続的成長への第一歩です。
3月の今こそ、「個人×環境×組織」の三層でレジリエンスを設計し、
新年度を“学習する組織”への転換点としていきましょう。
※本コラムの内容に研修実例を交えて、2026年3月18日(水)に無料オンラインセミナーを実施します。ぜひ、お申込み・ご視聴ください。
- タイトル| 現場で使えるレジリエンス ~若手の回復力を高める声かけと仕組み~
- 開催日時| 2026年3月18日 (水) 15:00 ~ 15:40(14:45~入室可能)
この記事を書いた人

神山 晃男(かみやま あきお)
株式会社ヒューマンエナジー 代表取締役
経営層むけの管理者育成研修、戦略立案などの他、
コミュニケーション研修が得意領域。
経営改善や投資ファンド系のコンサルティング会社を経て、2013年6月に株式会社こころみを設立。「コミュニケーション」と「高齢者・医療・介護系マーケティング」の専門家として数々のセミナー出演や執筆活動の他、大学院との共同研究や介護ロボットのAIによる会話エンジンの開発支援などにも携わっている。2022年、事業承継により㈱ヒューマンエナジー代表取締役に就任、経験を活かし講師としても精力的に活動中。
株式会社こころみ 代表取締役
株式会社ウェブリポ 代表取締役
認定NPO法人カタリバ 監事
医療AI推進機構株式会社 監査役
株式会社テレノイドケア 顧問
流通経済大学 非常勤講師
元 株式会社イノダコーヒ 取締役
元 ウイングアーク1st株式会社 監査役
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