【コラム】若手はAIを使えるのに、なぜ仕事の成果につながらないのか ― 生成 AIの業務活用 に必要な「任せ方・見極め方・判断基準」―

若手はAIを使えるのに、なぜ仕事の成果につながらないのか
― 生成 AIの業務活用 に必要な「任せ方・見極め方・判断基準」 ―

2026年4月、多くの企業で新入社員を迎えました。新入社員研修も終わり、これから現場配属という会社も多いのではないでしょうか。昨今では学生時代から生成AIに触れてきた世代が社会人になり、企業側の受け入れ準備も加速しています。

しかし、現場からは少し違う声が聞こえてきます。
「使い方は知っているのに、業務で活かせない」「AIの回答をそのまま提出してくる」――。

AIの利用経験は確かに広がったものの、それが業務成果に結びつかないというギャップが、新たな課題として浮かび上がっています。前々回のコラム「AIは導入するだけでは根づかない」では、組織全体でのAI活用が「設計不足」によって停滞する構造を整理しました。今回はその論点を、特に若手育成にフォーカスして掘り下げます。

日本経済新聞2026年4月2日の記事で、主要企業各社が一斉に新入社員向けに生成AI活用研修を始めたことが報じられました。AIを相手に顧客対応を練習するなど学習効果を高めるのにAIを活用する他、プロンプト作成や誤回答リスクへの理解など、業務でのAI活用を見据えた実践的な研修に取り組む企業も増えています。

その背景には、新入社員のAIリテラシーが急速に上がっているという現実があります。記事中で引用された産業能率大学総合研究所の調査では、2025年度の新入社員のうち約8割が生成AIの活用経験を持っており、前年度の約5割から大幅に増えたと報じています。

企業はこれを大きな可能性と捉えているのです。若手はAIに抵抗感を持っていないので、業務改善や生産性向上の起点になり得る、組織の成長を加速させてほしいと、どの企業も期待をもって新人育成にAI研修を実施している様子がTOPメッセージなどからもうかがえます。

一方で、2026年4月27日東洋経済オンラインの記事では、昨年の新人エンジニアの配属先企業から、AI活用を歓迎する声ではなく、怒りや悲鳴に近い声が上がっていると報じています。「AIに何でも聞いてコピペしている」、「内容を理解しておらず、出力結果の品質チェックができていない」、「一見ちゃんとして見えるので、チェック漏れが起き、かえって工数がかかる」など、AIによって「見せかけの有能さ」を身につけた新人が、現場で新たなリスクとなっているというのです。

ここでは「使われない」のではなく、むしろ使われ始めたときの“別のリスク”が顕在化しています。しかし、だからといって若者がAIを使うこと自体を否定するのは、この技術革新の時代においては本末転倒です。適切な使い方の基準がないまま活用が先行することを問題視する必要があります。そのため経済産業省・総務省では、「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」を策定しています。

既にAI開発事業者や提供者にはこのガイドが浸透しつつあり、教育や開発プロセスの多くにも組み込まれるようになってきていますが、AI利用者自身への指導も重要なため、最新版のガイドラインではAI利用者向けのチェックリストやワークシートも公開されています。

これらを活用して、「機密情報を入力しない、回答を鵜呑みにしない、著作権・個人情報・セキュリティに配慮する、人が最終判断を行う」といった運用を利用者自身にも理解してもらい、安心安全に組織や社会で使うための倫理観、リスク管理に伴う考え方を操作とセットで指導することが必要不可欠になっています。

ところで、冒頭で紹介した2026年4月27日東洋経済オンライン記事では、もう一つ注目すべきデータが示されています。コンサルティング大手PwCが日本を含む48の国・地域で実施した調査によると、業務で生成AIを「全く使用しない」と回答した割合は、研修生・新入社員で6〜7割と最も高く、管理職や経営幹部の4割以下を上回っていました。つまり、「若手はAI利用に慣れてはいるが、業務で生かす習慣は定着していない」というのです。

なぜAIに慣れている世代が、仕事ではAIを使いこなせないのでしょうか。もちろん、企業では環境が異なり、私的利用のように自由には使えない事情はあります。しかし、これは2)の内容とも関連するある種の「使い方」指導、リテラシー教育としてカバーされる範疇です。もし、それが十分にできたとしても、 AIの業務活用 が促進されるとは考えにくいのです。

一度、立ち止まって考えてみましょう。AIを業務で使うという行為は、本質的に何をする指すのでしょうか。

私たちは、 AIの業務活用 をこのように整理してみました。―「処理能力は高いが、業界文脈を知らず、ときどきもっともらしい誤りも出す部下に業務を委譲し、管理すること」―。

このような捉え方をすると、AI活用が単なるツール操作ではないことが見えてきます。指示の出し方、成果物の見極め方、リスクの判断、最終的な責任の所在、これらはすべてマネジメントの領域です。もちろん、組織がいきなり高度な業務判断を若手に丸投げする、という意味ではありません。「業務でAIを使わせる」こと自体が、早い段階から一段上の判断力、いわばディレクターや品質管理者のような役割を求めていることを指しています。

このようなマネジメント領域のスキルは、新人が持っていないものばかりです。それがいきなり若手にも求められるようになった――これがAI時代の構造的な変化です。本人の努力だけでカバーできる範囲を超えているのです。

このような技術の背景にある「役割の変化」が、違和感や混乱を生じさせています。私たちは、ここに生成 AIの業務活用 を推進するための本当の難しさがあると考え、2つの構造的な壁として整理しました。

壁① :マネジメント力を学ぶ機会の不足

2章でも述べた通り、AIを業務で使いこなす要件を分解すると、その大半が、実はマネジメントスキルそのものであることに気づかされます。

しかし、現状は若手がこうしたマネジメント力を学ぶ機会はほとんどありません。一般的に若手は、シンプルに言えば「まず先輩から指示を受け、作業を正確に進める作業者」として育成されます。例えば新人研修の内容は、社会人ルールやビジネスマナー、基礎的なスキルが大半を占めており、その後数年間はあまり教育機会はありません。判断力やマネジメント力は、管理職になるまでに「時間をかけて現場で先輩から学ぶもの」というのが多くの企業の現状ではないでしょうか。

まずは、AIを業務で使いこなすには技術スキルだけではなく、マネジメントスキルも重要であるという認識自体を広め、若手教育計画の中身を見直す必要性を促していく必要があります。

壁② :ベテランが持つ判断基準「ものさし」が言語化されていない

仮に若人にマネジメント力を教えようとしても、もう一つの壁にぶつかります。判断基準そのものが、組織の中にきちんと存在していないという問題です。

AIの出力を「これは良い/これは使えない」と評価するには、その業界・その会社・その業務における専用の「ものさし」が必要になります。そしてこのものさしは、ベテラン社員の中にこそ存在しています。長年の経験から、何を重視し、どこを疑い、どう仕上げれば顧客に通用するかを、彼らは知っています。

ところが、その判断基準の多くは次のような状態にあります。

「マニュアルを整備しよう」という掛け声は上がったとしても、言語化が難しいからこそ上手く進まず、使えないレベルで終わってしまったり、放置されてしまい、形になっていない企業様も多いのではないでしょうか。そのため教えようとしても、教える側に「正解の例」を体系的に示す手段がない。これが、AI研修が表面的な操作講座にとどまりがちなもう一つの理由です。

では、この2つの壁にどう向き合えばよいのでしょうか。私たちは、それぞれの壁に対応する2つのアプローチを組み合わせる必要があると考えています。

解決策①:マネジメント力の向上 により、AIで業務を回せる社員を育てる

壁①に対しては、若手にAIを使いこなすためのマネジメント力向上研修が必要です。私たちはこれを、ワークショップ型のプログラムとして設計しています。中核となるのは、次の4つのコア能力とマインドセットです。

❶ 目的を定義する力 ── 何を解決すべきかを自ら見つけ、AIへの問いに変換する。
❷ 指示を構造化する力 ── あいまいな業務目標を、AIが実行可能なタスクに分解・言語化する。
❸ 出力を批判的に検証する力 ── AIのアウトプットを業務基準に照らして評価・修正する。
❹ 改善サイクルを回す力 ── フィードバック→再指示→再検証のループを自律的に回す。

そして、これらすべての土台となるマインドセットです。「最終責任は自分が持つ」――AIは部下である以上、品質の最終責任は自分にある、という当事者意識です。コピペで済ませる人と、AIをディレクションして成果を出す人を分けるのは、突き詰めればこの一点です。

解決策②:暗黙知の構造化

壁②に対しては、ベテランの頭の中にある判断基準を引き出し、構造化する取り組みが必要です。これは研修プログラムというより、組織の知識資産を整備する取り組みに近いものです。

ヒューマンエナジーのグループ会社である株式会社こころみは、長年にわたり高齢者向けの傾聴インタビュー事業を運営する中で、人の語りから知見を引き出すメソッドを蓄積してきました。これを企業向けに応用したのが「Interview-to-Agent」と呼ぶアプローチです。ベテラン社員に対して構造化されたインタビューを行い、その判断基準・行動哲学・ノウハウを段階的に言語化し、研修教材としても、AIに学習させる素材としても活用できる形に整えていきます。

引き出された知見は、行動哲学・行動特性・汎用スキル・個別スキルといった階層に整理され、若手が学ぶ判断基準のライブラリや、いつでも相談できる「ベテランノウハウAI」として組織に残ります。

組み合わせると効果が倍増する

この2つのアプローチは、単独でも価値がありますが、組み合わせると効果が大きく変わります。
解決策①だけの場合、学ぶ判断フレームは汎用的なものになります。「一般論としてのAI活用」を身につけるには十分ですが、自社特有の業界文脈や顧客対応の機微までは届きません。

そこに②を組み合わせると、研修の中で扱う判断基準が「自社のベテランが実際に使ってきた基準」になります。若手は単に汎用スキルを学ぶのではなく、自社で活躍するための具体的な判断軸を身につけることになります。

さらに、研修が終わっても、判断基準ライブラリとベテランノウハウAIが組織の資産として残り続けます。育成・知識継承・AI定着が、同じ取り組みの中で同時に進むのです。研修費が、その場限りの「費用」ではなく、組織に蓄積する「資産」になる、これが、組み合わせることの本質的な意義だと考えています。

今回は若手のスキル着目して論じてきましたが、日本企業がAIの本来の利用効果を高めていくには、今後どんな取り組みが必要なのでしょうか。全体像を整理してみました。

① AI利活用におけるリテラシー ── 全社員がAIを安心安全に「使える」「活用できる」状態にする。役割に応じた領域・深さで学習を設計する必要があります。

② AI活用時の判断力(マネジメント力・判断基準の言語化) ── 3章で整理した通り、AIという部下を使いこなすには「仕事を切り出し、任せ、見極め、修正する力」が必要です。組織固有の実践的な判断基準は、今後いかに言語化して共有財産にし、AIに絡めて活用していけるかが企業の生き残りを左右していくと考えられます。

③ AI活用促進への改革意識(停滞への危機感・変革意欲) ── 「AIに脅かされる」意識から「AIで自分たちが変わるチャンスへ」と幹部や組織のマインドセットを転換します。

このいずれか1つが欠けても、 AIの業務活用 は失速します。多くの企業が「ツール先行で利用率が伸びない」、「デジタル得意層だけで進む」、「経営・管理職・現場で意識がズレる」という落とし穴に陥るのは、これらのどこかが整っていないのです。

本コラムでお伝えしてきたポイントを整理します。
若手のAI利活用度が急速に高まる一方で、AIの業務活用 度は若手が最も低い
• AIを業務で使いこなすとは、「優秀だが業界文脈を知らない部下をマネジメントする」ようなもの

若手の AI業務活用 が進まない構造的理由は2つ、
 ①マネジメント力を学ぶ機会の不足②ベテランの持つ判断基準が言語化されていない
解決策は、「①マネジメント力を育てる研修」、「②暗黙知の構造化」の組み合わせが効果的
AIの業務活用 推進のポイントは、「リテラシー×判断力×変革意識」

若手にAIを教えるというテーマは、見方を変えれば、組織のマネジメント力と知識資産を同時に整える絶好の機会でもあります。若手教育・ナレッジ継承・AI活用の促進・定着――この3つを別々の課題として追うのではなく、ひとつの取り組みとして束ねていく必要があります。

「AI研修を入れたが、現場で使われていない」「ベテランの退職が迫っているのに知識継承が進まない」―こうしたお悩みをお持ちの人事・研修担当者の皆さまに、本コラムの考え方が一つの参考となれば幸いです。


※本コラムの内容に実例を交えて、2026年5月21日(木)に無料オンラインセミナーを実施します。ぜひ、お申込み・ご視聴ください。


神山 晃男(かみやま あきお)
株式会社ヒューマンエナジー 代表取締役
経営層むけの管理者育成研修、戦略立案などの他、
コミュニケーション研修が得意領域。

経営改善や投資ファンド系のコンサルティング会社を経て、2013年6月に株式会社こころみを設立。「コミュニケーション」と「高齢者・医療・介護系マーケティング」の専門家として数々のセミナー出演や執筆活動の他、大学院との共同研究や介護ロボットのAIによる会話エンジンの開発支援などにも携わっている。2022年、事業承継により㈱ヒューマンエナジー代表取締役に就任、経験を活かし講師としても精力的に活動中。

認定NPO法人カタリバ 監事
医療AI推進機構株式会社 監査役
株式会社テレノイドケア 顧問
流通経済大学 非常勤講師
元 株式会社イノダコーヒ 取締役
元 ウイングアーク1st株式会社 監査役

本ブログの著作権は執筆担当者名の表示の有無にかかわらず当社に帰属しております。