部下の本音を引き出すには? -管理職に求められる技術「 きく 力」-

管理職に求められる関わり方について、前回は「伝える」技術を取り上げました。今回はその前段階、「 きく (聞く)」に焦点を当てます。特に、管理職が見落としがちなポイントに絞って「 きく 」で気を付けたいことをお伝えします。
-問:あなたは部下の話を「きちんと聞けている」と思いますか?-
目次
1.なぜ「 きく 」が管理職に重要なのか
2.傾聴における具体的な「きき方」
1)2種類のモードを使い分ける
2)傾聴(共感的理解)を実現する心構え
3)傾聴(共感的理解)を実現するスキル
3.その他の「きく」の実現ポイント
1)「見る」ことも「 きく 」ことの一部
2)沈黙を恐れない
3)自分が輝かない
4)面談時の3ステップ
1.なぜ「 きく 」が 管理職に重要なのか
「 きく 」、特に心情に寄り添って「聴く」ことには、単に情報を受け取る以上の価値があります。一般的に「 きく 」には「聞く」の漢字があてられますが、管理職にとって重要なのは「聴く」の意味です。いわゆる「傾聴」ととらえても問題ありません。

聴く(傾聴)には、相手との信頼関係を深める働きがあります。相手の話を途中で遮らず、否定せずに受け止めることで、「自分のことをわかろうとしてくれている」という安心感が生まれます。その安心感があるからこそ、相手は少しずつ本音を話せるようになります。傾聴は、ただ話を聞くことではなく、相手を大切に思う姿勢を伝え、信頼関係を育てていくための大切な関わり方の土台を担っているのです。
特に業務における「 き く」には、一般的な傾聴以上の難しさがあります。上司と部下という利害関係がある中では、自分の感情を切り離すことは簡単ではありません。「この程度は一人で解決してほしい」「自分がやれば一瞬なのに」——そうした思いが頭をよぎった経験がある方も多いのではないでしょうか。一方で部下の立場になれば、表面上のアクションとは別に、評価への不安・怒られたくない気持ち・よく見られたい思いなど、上司に対して常に何らかの壁を作っています。
したがって管理職は、ほめなくても怒らなくてもよいので、相手から「恐れられない」心理的安全を提供すること、これが「 きく 姿勢」の土台であり、職場の多様性に対応していく管理職には非常に重要なポイントになります。
2.傾聴における具体的な「きき方」
1)2種類の「きき方」モードを使い分ける
「きき方」には、共感モードと論理モードの2つのモードがあります。管理職はこの2つを場面に応じて使い分けることが重要です。

業務の場では、指摘しなければならないこと・確認しなければならないことが必ず存在します。そのため、信頼構築のために「聞く」時間と、業務として言うべきこと・聞くべきことを扱う時間を意識的に切り分けることが、2つのモードをうまく機能させるポイントになります。
また、切り替えの際には「合図」を設けると効果的です。たとえば、「共感モード」のときに
• 「ここまでの話を一度整理してみてもいいですか」
• 「少し状況の理解を深めたいので、確認させてください」
といった一言を挟むことで、自然に論理モードへ移行できます。これは話し手に「いまモードが変わる」と知らせる役割を果たし、違和感や唐突感を防ぐことが可能となります。
逆に、論理的理解から共感に戻る場合は、整理された情報を受け止める話し手の気持ちを確認し、
• 「いまのお話について、どんなお気持ちですか?」
• 「整理してみて、あらためて感じることはありますか?」
といった問いかけが有効です。これによって、話し手は緊張をほぐし、自分の気持ちと向き合うことが可能になります。
さらに重要なのは、「聞き手自身」が簡単に結論を出そうとしないことです。論理的理解が課題解決への一本道であり、それが会社におけるゴールと誤解されがちですが、話し手との信頼関係を維持・強化することも管理職における重要なゴールです。結論づけを急がず、必要に応じて再び共感モードに戻る柔軟性が求められます。
本稿では、 きく 姿勢の基本としてまず重視すべき「共感モード(共感的理解)」について補足していきます。
2)傾聴(共感的理解)を実現する心構え
傾聴、すなわち共感的理解で大切なのは、スキル以上に相手と向き合う心構えが重要です。

まず、相手に関心を持ち、尊重していることを態度や言葉で伝えること。次に、安易に「わかる」と決めつけず、「どのような気持ちなのだろう」と想像し続ける共感の姿勢。そして、反論や批判、すぐのアドバイスを控え、行動の奥にある気持ちを受け止める受容の姿勢が求められます。
※よくある落とし穴:「その気持ち、わかる」
善意からくる言葉ですが、相手は「自分の気持ちがそんなに簡単にわかるはずがない」と感じることが多いものです。自分の感情が一般化され、特別な体験が凡庸に扱われたように受け取られると逆効果になってしまいます。
→ 正しい姿勢は、「わかった」と言わないことです。
「そう感じたのですね」と受け止める。常に「まだ分からない」と考え、さらに深く知ろうとする姿勢が信頼を生むのです。
3)傾聴(共感的理解)を実現するスキル
傾聴(共感的理解)には、相手が安心して話せるようにするための技術も必要です。相手の感情に寄り添うために「技術を使う」と表現すると、違和感を覚える方もいるかもしれません。しかし、狙いはあくまでも「相手に熱心に聞いていることを伝える」ことです。「正しい伝え方」を「正しい場面で使う」ための技術は、相手によい印象を与えるために必要な要素と言えます。

あいづちは単調にならないようにし、言葉や抑揚に変化をつけることで、関心を持って聴いていることが伝わります。また、相手の言葉を繰り返すことで、話の内容や感情を受け止めていることを示せます。要約は、話を整理し、相手自身が内容を再確認する助けになります。質問をするときは「なぜ?」で追及するのではなく、話し終えた後に、4W1Hを意識した「開かれた質問(オープンクエスチョン)」でたずねる意識が大切です。
3.その他の「 きく 」の実現ポイント
1)「見る」ことも「 きく 」ことの一部
部下の話を きく とき、耳で言葉を受け取るだけでは十分ではありません。表情、姿勢、視線、声のトーン、話すスピード、沈黙の長さなど、言葉以外にも多くの情報が表れています。たとえば「大丈夫です」と言っていても、表情がこわばっていたり、声に力がなかったりする場合、本当は不安や迷いを抱えている可能性があります。
つまり、「見る」ことは相手を観察して評価するためではなく、言葉になっていない気持ちに気づくための行為です。管理職が相手の様子に丁寧に目を向けることで、「この人は自分の状態まで気にかけてくれている」という安心感が生まれます。
ただし、表情や態度だけで決めつけることは避ける必要があります。「元気がなさそうだから悩んでいるに違いない」と判断するのではなく、「少し考えているように見えましたが、今どんな感じですか?」と確認することが大切です。見ることは、相手を決めつけるためではなく、より丁寧に きく ための入口なのです。
2)沈黙を恐れない
管理職が部下との面談で陥りやすいのが「沈黙を埋めようとする」ことです。

部下との面談では、沈黙が生まれると、管理職側が不安になり、つい話をつなごうとしてしまうことがあります。しかし、沈黙は必ずしも悪いものではありません。相手が言葉を選んでいたり、自分の気持ちを整理していたりする大切な時間でもあります。むしろ、その沈黙の先に本音が出てくることも少なくありません。
大切なのは、急かさずに待つ姿勢です。相手の表情や目の動きに注意を向けながら、考えている様子を見守ります。顔をそらしたり、手元を見たりすると、退屈している印象を与えてしまうため注意が必要です。どうしても会話が続かないときは、「今、どんな言葉が浮かんでいますか?」と、相手が話しやすくなる問いかけをするとよいでしょう。
3)自分が輝かない
管理職として陥りやすいのが、「俺ならこうした」「それは〇〇が原因だ」と評価・解釈してしまうことです。業務を実現していくための対話の主役は、あくまでも実働を担う部下でなければなりません。

この姿勢は、部下の特性や状況によって変える「型」の話ではありません。消極的な人、怒りやすい人、落ち込んでいる人——相手のタイプは様々ありますが、ここでのやり方はいつでも一つです。相手とは、理解力・メタ認知力・価値観が大きく異なることを前提に、それでも理解をしようと共感する姿勢こそが、何よりも重要になります。
4)面談時の3ステップ
部下との面談時は、2章で伝えたことを意識して「話を聞き、質問している最中」だけがすべてではありません。それを実現するには、1章で述べたように話す前に安心できる場をつくり、話した後にきちんと感謝と合意で締めくくること、この一連の流れで一貫した「きく姿勢」を示すことが大切です。

今回は「 きく (傾聴)」の重要な効果とその実現方法について紹介してきました。最初は自分自身の慣れも必要ですし、相手によっても反応は様々なため、スムーズにいくことばかりではないでしょう。
ここで紹介したコミュニケーション手法を意識的に繰返し実践し、それによる部下の反応がどう変化するかに気を配ることも「 きく 」行為の一つです。ぜひ何度も試行錯誤しながら、相手の変化を確認し、少しずつ自分なりの部下との向き合い方を深めていただければと思います。
※本コラムの内容に研修実例を交えて、2026年7月23日(木)に無料オンラインセミナーを実施します。ぜひ、お申込み・ご視聴ください。
- タイトル| 「みる・きく」技術 ~部下の本音を引き出す「聞き方」~
- 開催日時| 2026年7月23日 (木) 15:00 ~ 15:40(14:45~入室可能)
この記事を書いた人

神山 晃男(かみやま あきお)
株式会社ヒューマンエナジー 代表取締役
経営層むけの管理者育成研修、戦略立案などの他、
コミュニケーション研修が得意領域。
経営改善や投資ファンド系のコンサルティング会社を経て、2013年6月に株式会社こころみを設立。「コミュニケーション」と「高齢者・医療・介護系マーケティング」の専門家として数々のセミナー出演や執筆活動の他、大学院との共同研究や介護ロボットのAIによる会話エンジンの開発支援などにも携わっている。2022年、事業承継により㈱ヒューマンエナジー代表取締役に就任、経験を活かし講師としても精力的に活動中。
株式会社こころみ 代表取締役
株式会社ウェブリポ 代表取締役
認定NPO法人カタリバ 監事
医療AI推進機構株式会社 監査役
株式会社テレノイドケア 顧問
流通経済大学 非常勤講師
元 株式会社イノダコーヒ 取締役
元 ウイングアーク1st株式会社 監査役
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